遺産分割は概ね、以下の手続を経て行うことになります。
一方、例えば、相続人がはっきりしていて、各相続人で相続財産の分け方について特段意見がない場合、いくつかを省略することが可能です。
例えば、不動産については長男Aさんが、預貯金については次男Bさんが取得するといった分け方について、それぞれが同意しているような場合には、不動産はA,預貯金はBさんが取得する旨の遺産分割協議書を作成すればよい事になります。
しかし、原則的には以下の手順となりますし、調停手続となった場合も、同様の手順を踏むことになります。
相続人が誰なのかを確定させる必要があります。
わかりきっている場合がほとんどかもしれませんが、預金の名義変更等の手続を行うためには、相続手続を行う場合には、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本の提出が必要になります。
これにより、被相続人の相続人が誰なのかを確定させることになります。
また、相続放棄をしたり、相続分の譲渡(※)や相続分の放棄(※)をしたりした場合、当該相続人は遺産分割の当事者とならないことになります。
※ 相続分の譲渡というのは、自身の法定相続分を他人に譲渡することをいいます。この結果、譲渡を受けた他の相続人(第三者も可能)が相続分を行使することになります。
相続分の譲渡は対価をもらう有償譲渡の方法も無償譲渡の方法も可能です。
※ 相続分の放棄というのは、自身の法定相続分を放棄することをいいます。
この結果、他の相続人の法定相続分が増加することになります。
例えば親がなくなり子3人が相続人である場合、一人が相続分の放棄をすると、他の相続人は2分の1ずつの法定相続分を有することになります。
被相続人の遺産分割の対象となる遺産が何なのかを確定させる必要があります。
被相続人が財産を整理するために作成していたメモや、管理している通帳があればそれによりますが、わからない場合、調査する必要があります。
なお、遺産分割の対象となる財産は、相続人が亡くなった時に有し、かつ遺産分割をする時に存在する財産を指します。
したがって、相続人が亡くなる前に有していたものの亡くなった時には存在しない財産や、相続人が亡くなった時には有していたもののその後存在しなくなった財産は遺産分割の対象にはならないのが原則です。
もっとも、相続人の合意により、遺産分割の対象とすることも可能です。相続人間で特段争いが生じていない場合、すべてひっくるめて、遺産分割の対象にすることができます。
しかし、合意が成立しない場合には、遺産分割の対象とすることは出来ないため、他の手続の中で、それらの財産の問題を解決することになります。
なお、遺産の存在が資料をもって明らかにできない場合、ないことを前提に遺産分割協議や調停は進めざるを得ないことになります。
遺産が確定されたら、それぞれの遺産の時価・価格を決める必要があります。
預貯金の場合には、預金残高が遺産の価格となります。上場株式の場合、株価をもとに価格を決めることになります。
一方、不動産や、非上場株式の場合、一義的な評価の指標はありませんから、その評価を行う必要があります。
遺産の評価にあたっても、相続人間で、一定の評価基準に従い、評価額を決められる場合、それによることになります。
しかし、争いが生じる場合、様々な評価方法を用いて評価額を算定する必要があります。
また、様々な評価方法を用いたものの、当事者間で評価が定まらない場合、専門家に評価の算定を求める鑑定を用いる場合もあります。
1~3が済んだ場合、あとは、個々の法定相続分に基づき、個々の財産を帰属や代償金による調整、財産の処分等の分割方法の決定をすることになります。
しかし、特別受益や寄与分が問題となる場合、特別受益の有無や、その額を決することになり、具体的相続分を算定することになります。
●具体例
被相続人Aは3000万円の財産を残して死亡した。相続人は妻B、長男C、長女Dである。Aは、生前、Dの結婚資金として600万円を贈与していた。
①みなし相続財産を計算する
3000万円(相続財産)+600万円(特別受益)=3600万円(みなし相続財産)
②各人の相続分割合を乗じる
妻B:3600万円×1/2(相続分割合)=1800万円
長男C:3600万円×1/4(相続分割合)=900万円
長女D:3600万円×1/4(相続分割合)=900万円
③特別受益となる贈与を受けた者につき贈与額を減算する
長女D:900万円-600万円(特別受益)=300万円
→以上より、各人の相続分は、B1800万円、C900万円、D300万円となる。
共同相続人の中に、被相続人の財産の維持や増加に「特別の寄与」(通常期待される程度を超える貢献)をした者がいるとき、この「特別の寄与」にあたる額を寄与分といいます。
このような「特別の寄与」をした者が他の相続人と同じ相続分しか認められないとすると不公平が生じますので、これを避けるため、特別な計算をして相続人間の公平を図るための制度です。
具体的には、以下のような計算を行います。
①当該相続人の寄与分を相続財産から減算し、「みなし相続財産」を計算する。
②「みなし相続財産」に各相続人の相続分割合を乗じる。
③各相続人の相続分の計算において、寄与分を有する者については寄与分額を加算する。
(※金銭債務は遺産分割の対象とならないため、ここでいう「相続財産」に含まれない点、特別受益と同様です。)
●具体例
被相続人Aは3000万円の財産を残して死亡した。相続人は妻B、長男C、長女Dである。Aは、晩年長期にわたって入院しており、
①みなし相続財産を計算する
3000万円(相続財産)+600万円(特別受益)=3600万円(みなし相続財産)
②各人の相続分割合を乗じる
妻B:3600万円×1/2(相続分割合)=1800万円
長男C:3600万円×1/4(相続分割合)=900万円
長女D:3600万円×1/4(相続分割合)=900万円
③特別受益となる贈与を受けた者につき贈与額を減算する
長女D:900万円-600万円(特別受益)=300万円
→以上より、各人の相続分は、B1800万円、C900万円、D300万円となる。
特別受益の有無や額につき争いがありまとまらない場合は、遺産分割調停において、特別受益となり得る贈与を受けた者以外の相続人が、かかる贈与を受けた者に対し、その者が特別受益となる贈与を受けたことを主張する必要があります。
また、特別受益の存在を否定された場合、特別受益の受けたという資料を示す必要があります。もし、存在の有無が明らかではない場合、特別受益はなかったという前提で協議していくことになります。
寄与分の有無や額につき争いがありまとまらない場合は、寄与分を定める調停を申立てることができます(家事事件手続法第244条、同法別表第2の14)。
寄与分を定める調停は遺産分割調停と独立して申し立てることができ、寄与分を定める調停が成立すれば、これを前提に遺産分割調停を行うことになります。
また、寄与分を定める調停が進行中に遺産分割調停が申立てられた場合には、両調停は一括処理されることになりますし、寄与分を定める調停を申し立てず、遺産分割調停の中で寄与分の主張をすることも可能です。
一方で、遺産分割調停が成立せず、遺産分割審判に移行した段階では、寄与分を定める審判を申し立てる必要があり、これを申し立てることなく遺産分割審判の中で寄与分を主張しても、裁判所は寄与分に関する審判をすることができません。
個々の相続財産につき、誰が取得するかを決めていくことになります。
具体例として、合計2000万円の相続財産を子二人が相続人で、その二人の相続人で1000万円ずつ分割するという例で解説します。
なお、便宜上、法定相続分どおりで分割すると仮定していますが、当事者間で自由に法定相続分と異なる額で分割することは自由です。
①現物分割(当該相続財産を形状や性質を変えずに取得させる方法)
1000万の残高の預金と1000万円の評価額の不動産を子2人各々がどちらかを取得するという方法です。
②代償分割(一部の相続人に法定相続分を超える額の財産を取得させたうえ、その代わりに、法定相続分との差額部分につき他の相続人に対価を払わせる)
評価額2000万円の不動産しか相続財産がない場合、いずれかが不動産を取得する代わりに、法定相続分相当額の1000万円を超える1000万円を取得する側の固有の財産により支払うという方法です。
③換価分割(当該相続財産を売却等により換価したうえ、代金を分配する)
評価額2000万円の不動産しか相続財産がない場合、不動産を売却した上、その売却代金を2分の1ずつ分けるという方法です。
④共有分割(当該相続財産を各相続人の相続分による共有とする)のうちどの方法を取るかを決定します。
評価額2000万円の不動産につき、共有持分を2分の1ずつとする分割方法です。
誰が、どの遺産を取得するのかを書面に記載し相続人全員が署名押印します。
疑義が生じないように預金であれば銀行名だけではなく支店名、預金口座の種別を、有価証券であれば銘柄や数量を明記しておくなど、しっかり特定しておくことが重要といえます。
また、財産の換価や名義変更の手続に必要なことを誰が行うかを記載したりします。他の相続人が手続に必要な協力を行うことを定めることも必要です。
遺産分割協議書の締結が済んだら、各財産の名義変更や換価手続を行うことになります。
遺産分割協議書だけではなく、銀行や証券会社所定の手続書類への各相続人の署名押印が必要になることが多いです。
遺産分割協議の流れ
お困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。
代表弁護士 金田 真明
東京都府中市宮町1-34-2 サンスクエアビル3階
経歴
富山県高岡市出身。
慶應義塾大学法学部法律学科、関西学院大学司法研究科卒業。
司法修習修了後、東京都日本橋にある第一中央法律事務所で勤務。
同事務所では、企業の再生や労務問題等、企業にまつわる様々な業務に携わりました。
2011年1月11日に、あかつき府中法律事務所を設立
主な対応エリア
立川市/八王子市/武蔵野市/三鷹市/青梅市/府中市/昭島市/調布市/町田市/小金井市/小平市/日野市/東村山市/武蔵村山市/国分寺市/国立市/福生市/狛江市/東大和市/清瀬市/東久留米市/
多摩市/稲城市/羽村市/あきる野市/西東京市/瑞穂町/日の出町/檜原村/奥多摩町の多摩地区/その他23区および神奈川県(南武線、小田急線沿線地域)埼玉県・山梨県など。
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